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酒場で声をかけられた美女とちょっといい雰囲気になって、家が近所だってんでちょっといいことを、とか。
そんな風に考えていたら、見事にやられた。
普段ならもう少しましに立ち回れたが、今夜ばかりは少し見栄を張って強い酒ばっかり飲みすぎた。
ぼこぼこに殴られて俺は、生ゴミと一緒にゴミ捨て場にぽい。
「あーあ…痛えなぁ」
呟いても一人。
まだ体を動かすのがしんどくて、ため息をついてから、俺はごわごわしたゴミ袋の中に体を沈めた。
息が白い。多分寒い。
なのに酔いのせいかそれとも発熱してきたか、体は熱い。
ぼんやりと天井に散る星を眺めながら、とろとろと、俺は眠りに引き込まれた。
――そうだ。寝てしまえ。
どうせならもう、このまま死ねたら楽なのに。
あの時の夢はいつもモノクロ。
アルディラの腕が動いて俺の喉が熱くなったのと同時に、アルディラの胸から、刀身が突き出た。
俺もアルディラも血まみれで、アルディラの背中越しに、ヒューゴが見えた。
咳き込んだら血が出たのを覚えている。でもモノクロだから血は赤くない。黒だ。まっくろだ。
俺を抱きしめたアルディラが何かを言っていた。
でも覚えていない。そこでぶつりと画面が切れて、次の場面。
アルディラはいなかった。
俺はさっきよりもまっくろになっていて、ヒューゴが俺の頭を抱いて、それから俺の右手を握り締めて泣いていた。
謝っていた。
何度も何度も。
ごめんね、ごめんねイシュ。ごめんね。
「――……」
最悪な気分で目が覚めた。世界はまだゴミ袋に囲まれている。
いいや、もう一回寝よう。ヒューゴにさえ見つからなきゃ、きっと俺は死ねるから。
誰かが俺の腹の上に捨てていってくれたらしい安酒の残りを呷って、俺はまた眠りについた。
ぺしぺし、と頭を叩かれた気がした。せっかくいい気分で寝てたのに。
深呼吸をして目を開けると、今更眼鏡が割れてる事に気がついた。まだ使えないこともないから使うけど。
「んあー……何だ、もう朝か……?」
「めっちゃ深夜」
呟いたら答えが返って来た。目の前に子供が座っている。面白そうな顔をして。なんだこいつ。
「えぇっと……何方様?」
割れた眼鏡越しに見えるのは、金色の髪と青い瞳。丸い膝小僧。
「判んないんスか? オレ、生き別れのアンタの息子っスよ」
うん。
なんだって?
一瞬、脳味噌が考えることをやめた。っつか停止した。確実に。
「んなっ……何言ってんだお前!?」
「オレのママは夜鷹でさ。ずっと聞かされてたんスよ、ひと晩だけ一緒に過ごして別れた男のこと。
あの人はオレが生まれたことも知らないだろうって。背が高くて黒髪で目つきが悪いチンピラみたいな――ママが初めて本気で惚れた男だったのよって」
背が高くて黒髪で目つきが悪いチンピラ…いいとこねぇな…って俺か! それって俺のことですか!
正直頭を抱えたくなるが、残念ながら心当たりがありすぎる。
こう、アレをナニするときにしくじることが何度も何度も――おまけにその、一切なんも考慮せずに朝起きたら知らない女複数人とベッドの中でしたとかなんかもう。
落ち着け今の俺そして過去の俺のばか! ほんとバカ!
そんな俺の切実な心の葛藤をさらりと無視して、無邪気な天使のような笑顔で、そいつは言った。
「ひと目で判ったんスよ、アンタがオレのパパだって。ねェ、おでん奢って?」
――言った事はこの上もなく小悪魔的だったが。
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